赤ちゃんの命をつなぐ最終手段「IABP」開発|世界初の新生児用・人工心臓補助装置
(酒井渉・浅井英嗣/札幌医科大学・北海道立子ども総合医療・療育センター)
今回は開発段階にある世界初の新生児用の人工心臓補助装置(経皮的大動脈バルーンパンピング;IABP)の紹介ページです。成人で効果があるIABPが赤ちゃんにはない背景・開発の現状、機器が活用されることによる救命への貢献についてお伝えします

心臓が原因で命が危なくなると、通常人工心肺とIABPが使われます。現在、赤ちゃんには人工心肺しか手段がありません。私たち研究チームはIABPを赤ちゃんのためにも開発することで、救命率を上げていこうとしています。
「切り札」が機能しない赤ちゃんの救命現場で待ち望まれてきたIABP
- ▶ 赤ちゃんは「救命の切り札」になるはずの人工心肺が機能しにくい
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心臓病の赤ちゃんは心臓の構造が通常と大きく異なり、治療の切り札となるはずの人工心肺は効果が出づらい現状があります。新生児には適応が難しく、大幅な救命率向上にはつながっていません。
- ▶ 人工心肺以外の医療機器の必要性が高い
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人工心肺以外の医療機器の必要性は高く、成人や小児にはあって効果が実証されているIABPの新生児用デバイスは存在しません。
人工心肺しか使用できない現状、新生児用IABPの開発は試みられるもののうまくいかず、治療は限られていました。
私たちの技術がどのように赤ちゃんを救うのか?
- 従来の開発においては下記のような課題がありました。
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- 小さな大動脈径と高い血管伸縮性が必要 バルーンサイズを合せること・圧力設定が難しい
- 高心拍数への追従性 新生児の高心拍数(通常120~160 bpm)に追従するために迅速かつ正確に作動するデバイスが必要。
- バルーン小型化と耐久性のバランス 大きな技術的ハードル
- そもそも人体に使えるレベルに到達しなかった 以前の開発では大動脈の損傷や血管の閉塞といった合併症が頻繁に発生。リスクを最小限に抑え安全性の確保が大きな課題
従来の開発過程で起きていた課題に対する解決策
- 科学技術と医療技術の向上 超小型かつ高性能なIABPの開発と新素材の導入などで低侵襲な機器を実現。生体外で新生児心拍数の想定上限、180 bpmまでの高心拍応答性を実現。
- 他分野の最新工学技術の導入 成人心筋梗塞のためのカテーテルで利用されている最新技術を応用し『モノレール構造』をIABPに初めて採用、小型化に寄与


メジャーな病気である心筋梗塞でエビデンスが示されている
心臓は「60%」の力があると生きられます。
人工心肺は心臓の右側の働きを担い、50%をサポート。IABPは心臓の左側の働きを20~30%助けてくれることが成人の心筋梗塞で実証されています。
人工心肺とIABPを合わせれば70%のサポートが期待できます。
IABP開発の先に私たちが展望する未来
● より多くの赤ちゃんが健やかに成長できる環境を実現
● 医療と工学の連携による新たな可能性の創出
● 次世代の技術革新を支える仕組みづくり

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